もうすっかり年末だな。
こんな時期に日記を書き始めるってのも何か変な話だけど、書きたい時に書いとくか。
どうせ年明けから気合入れたって、三日坊主で終わるんだろうしな。
武蔵坂学園に入ってから、色んな出会いがあったけど。
中でもやっぱり一番でかかったのは、結衣と再会できたことかな。
ただでさえ結衣の引っ越しで離れてくのが寂しかったし、
それから2年くらいして、俺がご当地怪人の部下に追われる破目になったりして。
もう二度と会えないかもな、なんて思ったりもした。
だからこんなところで偶然会えるだなんて、正直驚いたもんだ。
でもなんでかな。ちょい複雑だ。
同じ灼滅者であることが嬉しくもあったけど、あまり戦いに巻き込まれてほしくないような。
結構依頼に行ってたりするみたいだから、案外あいつも強い子だったんだな、とは思うんだけども。できれば、その……平穏な日常を送ってほしい。
それに最近あいつ、明らかに様子がおかしいんだよな。
引っ越す前とは雰囲気が違う、なんつーか……時折影を見せるんだ。
ふっと寂しそうな顔して。なんでもないよ、なんて言うけれど。
あいつも灼滅者として目覚めたってことは、やっぱ色々あったんだろうか。
……気のせいだといいんだけど。たぶん、何かしらあったよな。
お互い、空白期間については触れないようにしてるから、何とも言えない。
せいぜい「元気だった?」「……まあな。そっちは?」「うん、大丈夫」とかそんくらい。
……本当は全然元気なんかじゃなかったよ。
でも悔しくて恥ずかしくて情けなくて、何があったかなんて言えないんだ。
結衣の前でくらい、もっと素直になれればいいんだけどな。
そういえば昔……恥ずかしい話だけど、どうせ誰にも見せないんだからいっか。
確か幼稚園の頃だっけ?
「結衣ちゃんと結婚したい!」とか親に言ってたな、俺。
今じゃ考えられないくらい直球だ。
当然親は困ってた。そんで確かこんな感じで諭された気がする。
「結衣ちゃんはね、あなたの従妹なんだからダメよ。でも、結衣ちゃんは一人っ子で、おじさんもおばさんも忙しいから……あなたがお兄ちゃんとして、仲良くしてあげて」
あんまりよくわからなかったけど、とりあえずは納得したっけか。
それで、段々自分が守ってやらなきゃ、って想いに変わっていった気がする。
あいつ、小さい頃はよく男子にからかわれたり、いじめられたりしてたもんだから。
可愛かったし、金持ちのお嬢様ってことで妬まれてたのもあったんだろうな。
それで俺は、結衣を守るためならどんな相手にも立ち向かったもんだ。
でもあんまり喧嘩が激しくなると、結衣が泣き出すんだよな。「隼人くん、もうやめて」って。
そう言われると何もできなくなって、結果的にボコボコにされて。
後になってから「ごめんね、ごめんね」って何度も謝られたもんだっけ。
別にあいつが謝ることなんて何もなかったのにな。
そうやって何度も結衣のこと守って……騎士としての役割が、俺の誇りだった。
どんなにボロボロにされてもな。一対一ならともかく、数人がかりじゃさすがに勝てねーよ。
まあともかくそんな感じだったから、結衣が引っ越すってなった時、
役目を終えてしまうのが無性に寂しかったこと、今でもよく憶えてる。
……ああ、そうだ。武蔵坂で再会した時、言われたんだった。
「私が引っ越しの時、隼人くんから貰ったクッキー、とっても美味しかったよ。また作ってほしいな」……って。今思い出しても照れるけど、嬉しかったなー。
……今でも守ってやりたいと思うのは、さすがに過保護すぎるだろうか。
あー、こんだけだらだら書いてもなんだかやるせねーな。
なんだろうな、この気持ちは?
街でイチャつくカップルが心底羨ましい……ってのは正直あるけども。
まだ俺は寂しいのかもしれない。大切な人を、本気で守ってやりたい。
つっても結局、俺は弱い男だからな。情けなくて、どうしようもなくて。いつも負けっぱなしだ。
そんなんだから、そもそも彼女を求めること自体、間違ってるのかもしれないよな。
あの時のご当地怪人、俺のこと散々馬鹿だとか言いやがったけど。
……そうだよ、その通りだよ、こん畜生め。
なんてな。
俺みたいなのが幸せになっていいのかはわからんが。
来年は、良い年になるといいな。
※背後注
法律上いとこ同士の結婚は認められていますが、
血縁が濃い分リスクがありますし、親としては複雑だったということで。